『工具はともだち』について

本記事は産経デジタル 「cyclist」にて掲載されていた連載記事を再録したものです。

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工具はともだち<5>炭素鋼からクロモリまで 工具の素材 “鉄”を探る

(cyclist掲載日:2012/08/17)

 

前回:#4「アーレンキー」という名の秘密 ヘキサゴンレンチの選び方

 

オリンピックでは日本の女子選手の活躍に目を見張りました。近い将来、自転車の世界でも、女子選手がトップニュースになってくれるといいですね。

 

今回は、工具にどんな材料が使われてているかをご紹介します。

工具たちは、ひと言で言ってしまえば“鉄”でできています。ですが、そこには様々なこだわりがあるのです。

 

鉄は、皆さんもご存知のように、道具や機械の部品から建材に至るまで、様々な分野で使用されている、最もなじみの深い金属です。純粋な鉄(Fe)は自然界には存在せず、酸化鉄という形で鉄鉱石の中に多く含まれています。製鉄所で鉄鉱石から製錬された鉄は炭素を2~3%程度含んでおり、銑鉄(せんてつ)と呼ばれていす。しかし、そのままでは硬くてもろいため、素敵な工具を作る材料としては適していません。

 

そこで、炭素量を減らすと同時に必要に応じて他の元素を添加し、硬さと粘り強さを兼ね備えた特性になるよう、さらに不純物をとり除く「精錬」という作業をします。こうして出来たものを鋼(はがね)と呼んでいます。

 

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学生時代の化学の授業を思い出された方も多いのではないでしょうか。では、自転車のメンテナンスに使う工具は、どんな材料で作られているのかというと?

 

鋼には、炭素の含有量や添加されている元素により様々な種類があり、用途によって使い分けられています。硬さを求められる刃物やヤスリなどには炭素を多く含む鋼材が使われ、穴をマークするための「ポンチ」や金属や石を加工するための「たがね」のように衝撃を受けたり加えたりするもの、レンチ類のように硬さと同時に粘り強さが求められるものには、クロムやバナジウムなどを添加した工具用鋼材が使われています。自転車のメンテナンスをされる際に使用する工具は、この工具用鋼材が使われているケースが多いですね。

 

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私の勤めているKTCでは、その工具の特性や使用目的に応じて、「S45C」や「S55C」などの炭素鋼をはじめ、より強度やねばり強さを出しやすく、工具素材として適した特性を持つクロムモリブデン鋼やニッケルクロムバナジウム鋼といった合金鋼など、複数の素材を採用するようにしています。

ちなみに「S45C」と呼ばれる材料は、「炭素(Carbon)を0.45%含んだ鋼(Steel)」という意味。またクロムモリブデン鋼は、炭素鋼にクロムとモリブデンを添加したものです。

 

少し難しかったでしょうか。お店で工具を目にした時は、鋼の事もイメージして頂けたら、と思います。次回は、またそのほかの工具をご紹介します。