『工具はともだち』について

本記事は産経デジタル 「cyclist」にて掲載されていた連載記事を再録したものです。

一部修正・画像の差替えを行っておりますが、内容は掲載日時点のものとなっておりますのであらかじめご了承ください。

工具はともだち<46>工具ができるまでの6つの工程

(cyclist掲載日:2014/9/7-10/19)

 

#45アルミのハンドルバーは好みの長さに「ラチェットパイプカッタ」できれいにカット

 

このところ「工具はともだち」では、回す、切る、掴むといったメンテナンスの基本を支える工具類をご紹介してきました。今回からは復習の意味も含めて、これらの工具はどのように製造されていくのかをお話します。

 

その前にまずは、アイテムの企画について。われわれKTCを含め、さまざまな工具を作っているメーカーは、ユーザーの皆さんにコンタクトをとって情報を収集しています。これは新たにアイテムを生み出す場合だけでなく、既存の製品に対するご意見も参考にしています。自転車やクルマが部分改良されてどんどん良くなっていくのと同じように、実は工具にも色んな改良が加えられているんです。

一例をあげますと、KTCのラチェットハンドル(※BR3E 現在は生産終了)は同じモデルとして20年近く販売を続けてきましたが、そのなかで数回の改良が加えられています。形を変えるだけではありません。材料や加工方法など、見えない部分で多くの変更が施されています。そんな風に、タイムリーな改良を加えられる部分が、日本製の優れているところなのではと考えています。

鋼材は叩かれて鍛えられる

それでは、肝心の工具づくりの流れをご紹介しましょう。工具は大きく分けて6つの加工を経て生産され、皆さんのお手元に届きます。

①材料の切断

工具の材料となる鋼材は、さまざまな太さがあり、おおむね長尺もので保管されています。製造する工具のサイズに合わせて切断機でカットしていきます。

kouzai

②塑性(そせい)加工

次に行う塑性加工は、鋼材に大きな力を加えて変形させることによって、工具の形に近づける方法です。加工にかかる時間が短く、鋼材のサイズが大きい場合でも対応が容易なため、工具づくりに採用されています。
特に工具では塑性加工のなかでも、材料をハンマーなどで叩いて圧力を加える鍛造加工が採用されている場合が多いようです。強度が必要な工具たちですから、力を加えられ、鍛えられて仕上がっていきます。
さらにKTCでは、鍛造加工のなかでも精度の要求が厳しいソケットなどは常温で成形する冷間鍛造、サイズが大きいレンチ類などは熱間鍛造を用いています。

 

tanzou

いらない部分を抜き型で加工 仕上げはなめらか、かつ正確に

熱間鍛造や冷間鍛造で鍛えられた材料は、金型に基づいた形状へと形を変えていきます。ただ、塑性加工が終わった段階では、工具として完全に鍛えられた状態とは言えません。肉体改造でいえば、脂肪が燃焼する体質に変化してきたけれど、まだ余分な脂肪が残っている状態。もしくは「みみ付きのたい焼き」を想像していただいた方が、簡単かもしれません。

③バリ抜き・研磨

たい焼きでは、みみがついたまま販売しているお店もありますね。しかし工具を作るうえでは、みみは「バリ」と呼んでいますが、必要のない部分です。これらは金型(抜き型)を使用してプレスすることで、工具として加工された部分と切り離されます。
この「バリ」に関しては省資源、省エネルギーの面から考えても、少ないに越したことはありません。材料をムダにしてしまうだけでなく、その後の加工工程での資源ロスなども引き起こしてしまうからです。われわれ、ものづくりを行う企業は、金型設計や加工方法の見直しなどを日々繰り返し、このような無駄な部分の減量化を進めています。余分な部分を削り取る必要がない、よりよい加工方法を追求しています。

 

bari

さて、「バリ」を取り除いた形状は、皆さんにお使いいただいている製品に近い形状になっていますが、まだ細かな部分の詰めが必要です。抜き型で抜いた箇所は、非常に鋭角になっていたり、小さな金属の突起(カエリ)が発生したりしている場合があります。また、ボルト・ナットに接触する「口径部」の寸法があいまいな状態でもあります。このまま完成品に近付けていくと使いづらいだけでなく、最悪の場合、皆さんにけがを負わせてしまう可能性もあります。
ですので、サンドペーパーなどを利用し、使いやすい形状へとなめらかに仕上げていきます。また、口径部に関しては「ブローチ」という専門の刃物で、正確な寸法通りに仕上げます。ここまでくれば、だいたい50%くらい完成した状態です。

“魂を入れる”熱処理 加熱と急冷によって硬く、粘りのある工具に

さて、寸法どおり、そして狙った仕上げレベルまで加工された工具類。そのまま使っても大丈夫かな…と思えますが、まだまだです。スポーツで言えば、試合ができる人数が集まった状態に過ぎません。ボルト・ナットをしっかりと緩めたり、締めたりできる工具になるためには、ほどよい硬さと衝撃にも耐えうる粘りが必要になります。

④熱処理

そこで、熱を加えることで工具に“魂”を入れていきます。製品に硬さを与えるために、加熱し、急冷します。「焼き入れ」と呼ばれる工程で、必要な硬さに仕上げていきます。鉄は、熱を加えれば硬くはなりますが、反面、もろさもあるため、粘りを与える必要が出てきます。そのため急冷後に再度、低温(といっても約400℃程度ありますが…)で熱を加えます。その工程は「焼き戻し」と呼ばれています。焼き入れと焼き戻しを行うことによって、硬くて粘りのある上質な工具が出来上がっていきます。

netsu

 

憧れるような強くて美しい工具に 細かく磨いたあとはメッキの“お化粧”で完成

これまで紹介してきた工程で、工具を作るための最適な素材を、想定した仕様に基づいて成形し、カット。安全性を考慮し、バリやカエリといったものを取り除くために、特殊な刃物やサンドペーパーで磨く。そして硬く強靭でありながらも、壊れにくくするために熱処理を施す。 そこに、美しいという要素を追加していくのが、今回紹介する工程です。

⑤バレル研磨

さまざまな加工工程を経て、完成系に近づいてきた工具。最後に美しさを引き出す表面処理を施していきます。ただ、そのままの状態で表面処理を施すと、表面に付着している不要なものまで包みこんでしまいます。ですので、まずはその不純物を取り除くところから。

刃物やサンドペーパーでカエリなどを取り除いても、まだ手を損傷させてしまうような小さなものが残ってしまいます。それらをバレル研磨という方法で、取り除いていきます。バレル=樽の中に、研磨石やコンパウンドとワーク(工具)をいれ、小さな振動をつけることで、表面を滑らかに仕上げます。この工程は研磨材が小さくかつ自由に動くため、機械で研磨しにくい場所であっても美しく仕上げることができます。ただし、必要以上にやるとワークの角部を丸くしてしまう危険性があるので、適切な力、時間で行う必要があります。

barrel

 

⑥表面処理

微妙な調整をしながら、工具のお肌の表面が滑らかになれば、そろそろお化粧の時間です。工具の表面処理は、一般的には、ニッケル・クロムのメッキを施します。表面を薄膜で覆うことにより、美しく仕上げるだけでなく、金属のさびを発生しにくくするといった狙いがあります。

mekki



 このようにして、皆さんに憧れを与えるような工具作りをしています。

ただし水分には、決して強くありません。雨に濡れたら拭き取る、適度な油分を塗布しておくなど、日ごろのメンテナンスも欠かさないでくださいね。