Index
本記事は産経デジタル 「cyclist」にて掲載されていた連載記事を再録したものです。
一部修正・画像の差替えを行っておりますが、内容は掲載日時点のものとなっておりますのであらかじめご了承ください。
(cyclist掲載日:2013/3/10)
前回#17締付けのメカニズムを知ろう トラブル要因の“締付け過ぎ”に気をつけて
前回、ボルトのメカニズムについて説明させていただきました。簡単におさらいをすると、摩擦力と引っ張られて伸びようとする力が発生し、締付けられるということでした。
前者の摩擦力による締付けは結構認知がされているようで、先日サイクルショップのスタッフを対象に行なった講習会でも、多くの方がご存知でした。「引っ張られて伸びようとする力」、これももうひとつの大きなポイントですよ。
今回お話したいのは、“締め過ぎ”についてです。これは、ボルトの締付けに関して特に初心者が陥ってしまいがちな問題です。
ボルト・ナットが緩むと、パーツ類がガタガタしたり脱落したり…危険な現象が想像できますよね。これが落とし穴。人間、どうしても危険を回避するがために、必要以上の力でボルト・ナットを締付けてしまうのです。
では、なぜ締め過ぎがいけないのでしょう?
それは、ボルトの特性に起因します。締付けられていたボルトを緩めると、引っ張られていたボルトは元に戻ります。ボルトは、自分の持っている能力の範囲内で元々の形状に戻る特性を持っているのです。しかし、締付ける力をどんどん増やしていくと、ある時点からボルトは、完全に元に形に戻らなくなります。
元に戻るか、戻れなくなるかの境界線を専門的には、「降伏点」と言います。また、ボルトが完全に元に戻る範囲を「弾性域」(弾性変形範囲)、完全に戻らなくなる範囲を「塑性域」(塑性変形範囲)といいます。塑性域を超えてさらにボルトを締めつけていくと、最終的には、ねじ切れてしまいます。この点を「破断点」と言います(図を参考にしてください)。
愛車のボルトが緩まないようにするには、できるだけ大きな力で締付けることが望ましいです。しかし、先にご説明したとおり、完全に元に戻らない「塑性域」まで締めつけてしまうと、破断点に近づいてしまうため、愛車にとってもサイクリストのみなさんにとっても危険な状態になってしまいます。
例えば、折れたボルトが飛んできて怪我をしたり愛車のパーツを破壊してしまったり、さらに大きな事故にもつながりかねません。
ボルトに極度の“愛情”の力を注いで、締付けすぎるのは、非常に危険です。弾性域、つまり元に戻ることができる範囲で締付けてあげましょう。