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本記事は産経デジタル 「cyclist」にて掲載されていた連載記事を再録したものです。
一部修正・画像の差替えを行っておりますが、内容は掲載日時点のものとなっておりますのであらかじめご了承ください。
(cyclist掲載日:2013/1/13)
前回#14工具が出来るまで・パート3――表面処理の大切さは“ベースメイク”に似たり
前回、きちんと表面処理を行なうことは、あとに続く処理の密着性を左右する大切な工程であることを説明しました。
今回は、仕上げ。ピカピカ銀色に光る”肌色”は、めっき(鍍金)によって実現しています。なかには、真っ黒な処理をした「黒染め」と呼ばれるものもありますが、こちらはまた機会があればご紹介しますね。
めっきの歴史をたどってみると、日本では、仁徳天皇陵の埋葬品の甲冑(かっちゅう)が、もっとも古いとされているのだとか。
19世紀後半に発電機が発達すると、大量の金属機械部品や自動車部品に耐腐食性・耐磨耗性を付与できるようになりました。この技術発展がなければ、”美肌”工具は生まれていなかったでしょう。我々の会社は、まだ60歳と少し。(※掲載時)めっき歴では”若者”の部類に属するのかもしれません…とうことで、工具の美肌を実現するめっきの歴史をお話しました。
現在皆さんにお届けしている工具類は、長い歴史を持つこの技術を現代版に発展させて、生産しています。基本的には、めっきしたい工具類に電流を流して、表面に薄い被膜をつくり、物体の性質を変化させていく方法です。これを「電気めっき」といいます。
まずは前回お話ししたバレル研磨後、後に行なうめっき被膜が乗りやすいよう、「洗顔」のような洗浄をします。次に、前回少しお話しした「ニッケルストライク」で、最初の被膜をつけていきます。その上に、光沢を作る目的のニッケルを付着。より美肌効果をアップさせるために、このニッケル皮膜は、半光沢ニッケルと光沢ニッケルを二重に付着させていきます。ニッケルの被膜技術が発達していないころは、研磨機で表面をつるつるに磨いていたそうです。その被膜に重ねるようにして、次は、クロム(元素記号はCr)を付着させます。
▲画像左:バレル研磨 右:工具のめっき層
これで表面処理はほぼ完成です。
“美肌”を得た工具は、単に表面が美しいだけではありません。クロムを付着させることによって、表面を硬くすることができます。また、錆などによる腐食を防ぐ効果もあります。高硬度の実現、耐摩耗性の向上、耐腐食性の向上といった専門用語でも説明されていますね。
工具の表面が軟らかいと、愛車のメンテナンス時、固く締まったネジに力がうまく伝わらず、回せなかったりします。また表面に錆がでていると、愛車のボルトやナットにキズをつけたり、作業する手をけがさせてしまったりと、危険な事ばかり…。しっかりとした表面処理によって、そういった悩みを回避できるメリットがあります。
道具としての美しさも非常に重要ですが、われわれがこだわるのは、安全。人間の美肌は、スキンケアやメイクだけでなく、健康な体作りから生まれるのと同じで、工具も表面の美しさだけでなく、中身まで安全にしっかり作られている必要があります。そういった工具が、いい工具だと思います。