『工具はともだち』について

本記事は産経デジタル 「cyclist」にて掲載されていた連載記事を再録したものです。

一部修正・画像の差替えを行っておりますが、内容は掲載日時点のものとなっておりますのであらかじめご了承ください。

工具はともだち<14>工具が出来るまで・パート3――表面処理の大切さは“ベースメイク”に似たり

(cyclist掲載日:2012/12/23)

 

前回#13工具が出来るまで・パート2 ――最高900℃の熱処理工程を経て強靭な工具へ

 

パート1、パート2と、工具づくりの全体の流れについて紹介してきました。工具は、機能的には単純であっても、皆さんに安全に、しかも快適にご利用頂くために試行錯誤されて作られているのが分かっていただけたと思います。

 

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そんな中で、今回ピンポイントで紹介したいのが、表面処理。工具の表面処理は、「サビを防ぐ」という目的が大前提なものの、美しく見せる効果も目指しています。「より強く、より使いよく、しかも美しい」というのが、キーワードなんですね。女性のメイクによく似ている気がします。まずは、強靭に仕上がった工具のフェイスを“洗顔”。使用するのは、洗顔用せっけんなんて生易しいものではありません。強靭な金属の汚れや、ささくれをキッチリ落とすためには、研磨石と研磨剤が必要です。

 

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▲写真右:バレル研磨

樽型の機械(バレル)に、研磨石と研磨剤そして工具を投入し、振動・回転させて磨きあげていきます。磨きあがったフェイスは、ささくれていた箇所の角が取れ、汚れも除去された状態になるので、非常にすべすべした“赤ちゃん肌”のような表面へと変化していきます。金属のささくれで、皆さんの手に怪我をさせてしまうこともありませんね。

 

すべすべな肌は化粧のりがいいと聞きますが、工具も同じなんです。ここまでの工程は下地処理で、次は、“ベースメイク”。多くは、ニッケルとクロームの鍍金(めっき)処理が施されています。

ベースメイクは、素地の状態である工具の表面に、ニッケルストライクと呼ばれる処理を施していきます。短い時間で行なう工程ですが、非常に重要。これが不充分であると、あとに行なう処理の密着性が下がってしまい、表面がはがれてしまうこともあります。“化粧崩れ”してしまうのです。

こういった下地処理は、工具だけではなく、メガネの金属フレームやゴルフのクラブなどにも採用されています。次回は、工具の美しい表面…“完璧な肌”の完成を紹介します。